第4回:知財戦略 — 特許とプログラム・ライセンス(AGPL等の罠)
特許の観点

- アルゴリズム/SaMDの特許、FTO(実施の自由)調査、回避設計。
- ソフトウェア特許は国・要件で扱いが異なり、特許単独では守り切れない領域が多い。
用語解説|FTO(Freedom to Operate):自社の実施が他社特許を侵害しないかの調査。「権利を取る」だけでなく「他社権利を踏まない」ことが事業の前提になります。
プログラム・ライセンスの観点(重要)
医療Webサービスは多数のOSS・モデル・データに依存します。主なライセンスと制約:
| ライセンス | 型 | 主な制約・注意 |
|---|---|---|
| MIT / BSD-2/3 / ISC | パーミッシブ | 著作権表示の保持。制約が少なく商用に使いやすい |
| Apache-2.0 | パーミッシブ+特許許諾 | 明示的な特許グラント。NOTICE保持。特許係争時の終了条項 |
| MPL-2.0 | 弱コピーレフト(ファイル単位) | 改変ファイルの開示。アプリ全体には及びにくい |
| LGPL-2.1/3.0 | 弱コピーレフト(ライブラリ) | 動的リンク中心。差し替え可能性の確保 |
| GPL-2.0/3.0 | 強コピーレフト | 配布時にソース開示。GPL3は特許条項あり |
| AGPL-3.0 | 強コピーレフト+ネットワーク条項 | SaaSで“利用させる”だけでもソース開示義務。医療Webで最重要の注意点 |
| 商用/プロプライエタリ | クローズド | 利用条件・利用範囲・再配布制限を個別確認 |
| デュアルライセンス | 選択制 | OSS版と商用版(例:SSPL 等の派生も留意) |
| モデル/データ系(OpenRAIL, Llama Community, CC 系) | 個別 | 商用利用・用途(医療)制限、再配布、出力物の扱いに注意 |
最大の罠——AGPL/SSPL の「ネットワーク条項」

GPLは「配布したとき」にソース開示義務が生じます。ところが AGPL は、配布しなくても、ネットワーク越しに"利用させる"(=SaaSとして公開する)だけで開示義務が発動します。医療AI WebはまさにSaaS。依存の奥深くにAGPLが紛れ込むと、自社の中核コードまで公開を迫られ得るのです。
用語解説|ネットワーク条項(AGPLの肝):AGPL-3.0 第13条。改変版をネットワーク経由で提供するユーザーに、ソースコードへのアクセスを提供する義務を課す。SSPL(MongoDB等)も類似の発想。
用語解説|SBOM:Software Bill of Materials(ソフトウェア部品表)。使っているOSS・バージョン・ライセンスの一覧。推移的依存(孫依存)まで洗い出すのが要点。
なぜ「総合戦略」が必須か
- AGPL/SSPL のネットワーク条項は、公開した瞬間にソース開示義務を発生させ得る——依存に紛れ込むと事業モデルを揺るがす。
- モデルの重みのライセンス(商用可否・医療用途制限)が、サービスの可否を左右する。
- Apache-2.0 の特許グラント等、ライセンス選択は特許リスクにも直結。
キーポイント:守りは「特許」一本ではなく、特許FTO + ライセンス目録(SBOM)+ 依存ポリシー + コントリビュータ合意(CLA/DCO)+ モデル/出力物の権利整理を最初から束ねた総合的プログラミング戦略で決まります。後付けは高コスト・高リスクです。
宍戸&アソシエーツは、特許+ライセンス+AI実装を横断した助言を提供します(機密と公開物を分離する運用も重要)。次回(第5回)で、第1回の5つの問いにまとめて回答します。
参考文献
- 各OSSライセンス公式テキスト:GNU AGPL-3.0 / GPL / LGPL、Apache-2.0、MPL-2.0、MIT/BSD。
- モデル/データ系ライセンス:OpenRAIL、Llama Community License、Creative Commons の各公式。
- SBOM / 依存管理:NTIA・CISA の SBOM ガイダンス。
📚 このシリーズ(全5回)(米国の医療AI Webサービス(第1シリーズ))
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